株式の相続とその評価方法とは?相続時の注意点についても解説
株式は近年、資産形成の手段として広く活用されるようになっていますが、相続時の評価や相続手続は現金・預金に比べて複雑です。
今回は株式の評価方法や相続時の注意点について、解説します。
株式の種類と相続時の評価方法について
近年の資産運用の意識の高まりやインターネットやスマートフォンの普及による証券取引の利便性の高まりから、株式を保有する人が増加しています。
一方で、株式を保有する人に相続が発生した場合、その相続においては、現金や預金とは異なり、その評価方法が複雑です。
株式は「上場株式」と「非上場株式」に大別され、それぞれに適用される評価方法が異なります。
評価方法の違いが評価額の違いとなり、その評価額によって相続税の負担額が変わる可能性があるため、正しい知識が必要です。
以下では、株式の種類とその評価方法について解説しますので、詳しく見ていきましょう。
上場株式と非上場株式
株式とは、会社が出資者に対して発行する有価証券のことをいいます。
そして、株式は、その発行会社が証券取引所に上場しているかどうかによって、「上場株式」と「非上場株式」の 2つに分類することができます。
なお、「株券等の電子化に関する法律」(いわゆる「株券電子化法」)の施行により、 2009年 1月 5日をもって上場株式の株券はすべて電子化され、紙の株券は無効となりました。
また、現在の会社法によって、非上場株式については、定款で株券を発行すると定めない限り、株券を発行しないことになっています。
上場株式について
上場株式とは、証券取引所(東証プライム市場、東証グロース市場など)に上場しており、基本的に誰でも自由に売却や購入ができる株式です。
証券会社や信託銀行が管理しているため、証券会社の窓口、ウェブページ、取引用アプリなどを通じて取引を行います。
上場株式は、日々取引がされていて株価も変動しているため、額面ではなくその時々の時価で取引をします。
非上場株式について
非上場企業とは、証券取引所に上場していない会社の株式で、主に中小企業が発行するものです。
証券取引所や信託銀行を通じた取引ができないことから、非上場株式には市場での時価が存在せず、相続や贈与の際には、その都度評価をする必要があります。
相続時の株式の評価方法
相続における株式の評価方法は、上場株式と非上場株式によって異なるので注意が必要です。
以下では、株式の評価方法について詳しく解説します。
上場株式の評価方法について
上場株式は、以下の 4つのうち、最も低い価格を選択して評価します(相続税評価通達)。
- 1. 相続発生日の終値
- 2. 相続発生日の属する月の終値の平均額
- 3. 相続発生日の前月の終値の平均額
- 4. 相続発生日の前々月の終値の平均額
株価は証券会社が発行する残高証明書等の証明書やインターネット上で確認できます。
なお、残高証明書等の取得には、相続人であることを証明する戸籍謄本などの書類が必要です。
非上場株式の評価方法について
非上場株式には時価がついていないため、上場株式とは異なり、以下の「原則的評価方式」と「配当還元方式」の 2つの方法で評価します。
- 原則的評価方式
原則的評価方式は、会社の規模や業績に応じて、以下の表の 3つの方式のいずれかで評価します。
評価方法 | 内容 |
---|---|
類似業種比準方式 | 同業種の上場企業の株価・利益・配当を基に評価する方式で、主に大企業・中企業の支配株主の株式を評価するケースで使用します。 |
純資産価額方式 | 会社の帳簿を基に清算価値ベースで評価する方式で、主に小企業の株式や少数株主・同族株主グループに属さない株主が保有する株式を評価するケースなどで使用します。 |
併用方式 | 上記 2つの方式を企業の規模等に応じて一定の割合(例:90:10、75:25、60:40、50:50など)で併用する方法です。 具体的な割合は国税庁の評価通達に基づいて決定されます。 |
- 配当還元方式
被相続人が少数株主(通常5%未満)で経営に関与していない場合などの限定的なケースで適用されます。
計算式:
【配当還元価額】=(1株あたりの年間配当金(※1)÷10%)×(1株あたりの資本金等の額(※2)÷50円)
※1 1株あたりの年間配当金は以下のとおり計算します。
【1株あたりの年間配当金】=(直前の期とそのひとつ前の期の配当金総額の合計÷2)÷(直前期の資本金÷50円)
※2 「資本金等の額」とは、資本金と資本剰余金の合計です。
必要な数値は、発行会社に問い合わせることで取得可能です。
株式を相続するときの注意点
被相続人の保有していた株式を相続する場合、次のような注意点があります。
- 上場株式の場合、証券口座が必要になる
- 非上場株式の場合、会社によって相続手続が異なる可能性がある
- 相続した後の価格変動によって、思わぬ損失を受けてしまう可能性がある
上場株式の場合証券口座を新た開設する必要がある
上場株式を相続した場合、相続した株式を被相続人名義の証券口座から相続人の口座へ振替手続(移管手続)をしなければならない点に注意が必要です。
被相続人の保有している証券口座をそのまま引き継ぐことはできません。
そのため、株式を相続した人が証券口座を持っていない場合には、新たに開設する必要があります。
非上場株式の手続は会社によって異なる
非上場株式を相続した場合、株式を発行している会社によって、相続手続(名義変更)の方法が異なる可能性がある点に注意が必要です。
そのため株式を発行している会社の担当者と連絡を取り、相続手続をする必要があります。
なお、株式を発行している会社が中小企業の場合、その会社も相続手続に不慣れであるために、相続手続がスムーズに進まないことも考えられます。
非上場株式の相続手続は非常に難しいため、司法書士などの専門家へ相談することをおすすめします。
相続した後の価格変動によって、思わぬ損失を受けてしまう可能性がある
上場株式、非上場株式にかかわらず、株式を相続した場合は、現金や預金を相続した場合と異なり、株式自体の価値が変動するため、注意が必要です。
たとえば、相続人全員での遺産分割協議が成立し、株式を相続することに決まった後、株式を発行する会社の業績が悪化するなどにより、株式の価格が大幅に下がってしまう可能性があります。
このような場合であっても、一度成立した遺産分割協議をやり直すことは、他の相続人の了解が得られない限り難しいため、株式を相続する場合には、思わぬ損失を受けてしまうリスクがあることも十分理解しておく必要があります。
まとめ
今回は相続における株式の評価方法や相続時の注意点について解説しました。
株式の相続では、上場株式と非上場株式で評価方法が大きく異なるので注意が必要です。
上場株式は相続発生日の株価や相続発生日前後の株価平均によって評価し、非上場株式は会社の業績や資産状況に応じて原則的評価方式か配当還元方式によって評価することになります。
株式を相続する場合には、その評価や実際の相続手続が難しい可能性があるため、少しでもご不安に思う方については、税理士や司法書士などの専門家へ相談することをおすすめします。