遺言書が持つ効力と無効になるケース
遺言制度は、その人が書き残した意思に法的効力を認めて、その人の死後に実現させる制度のことです。
「自分が死んだ後は預金を子供に渡したい。」「自宅を妻に引き継がせたい。」「子供の認知をしたい。」などと考えた場合、法律上定められた方式に従って遺言書を書いておけば、死後にその効力が生じます。
この法律上定められた遺言の方式については、民法960条に「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。」と規定されています。
一方で、法律に定める方式に従わない遺言は、道義的にはともかく、法律上は何の効力もないということになってしまいます。
冒頭で「遺言制度は、その人が書き残した意思に法的効力を認めて、その人の死後に実現させる制度のことです。」と解説しましたが、遺言制度は、遺言者の死亡によって「一定の法律効果を生じさせることを目的とする」相手方のいない単独行為ですから、どんな内容の遺言にも一律に法的効力を認めていたのでは、かえって相続人や利害関係人に不測の事態をもたらしてしまうことも考えられます。
そこで民法は、遺言をすることのできる(法的効力をもつ)事柄を一定の事項に限定し、それ以外の事項についいて遺言しても、法的な効力は生じないと定めました。遺言できる事項は、おおむね以下の4つに分類されます。
1つ目は、相続に関するものです。相続人の廃除または廃除の取消し、相続分の指定または指定の委託、特別受益の持戻しの免除、遺産分割方法の指定または指定の委託、遺産分割の禁止、相続人間の担保責任の指定、遺言執行者の指定または指定の委託、遺贈の減殺方法の指定などがこれに当たります。
2つ目は、遺産の処分に関するものです。遺贈、一般財団法人の設立、信託の設定、生命保険金の受取人指定の変更などがこれに当たります。
3つ目は、身分に関するものです。認知、未成年後見人及び未成年後見監督人の指定がこれに当たります。
その他、祭祀承継者の指定も遺言によってできる事項として定められています。
民法の規定する遺言の方式には、3つの普通方式と4つの特別方式があります。
それぞれの書き方や具体的な手続きは、民法967条~984条に規定されていますが、いずれの方式も「遺言書」という証書を作成しないと、遺言としての効力は生じません。そして、特別方式が認められるのは一定の特殊なケースのみで、一般的には普通方式が使われます。
普通方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つがありますが、どの遺言方式がベストかというと、これは一長一短です。
本人が自書する自筆証書遺言は、とくに立会人も証人もいりません。遺言の全文、作成年月日、氏名を自書し、これに印を押すだけですから、作るのは簡単です。もっとも、パソコンで作成してしまったり、作成年月日を書き忘れたり、訂正方法を間違えたり、いわゆる要式の不備があると、法律上、遺言の効力が認められません。15歳に達しない人や2人以上の医師の立会いがない成年被後見人の遺言も無効になってしまいます。また、自筆証書遺言の弱点として、遺族が遺言の存在に気づかなかったり、逆に隠されてしまったり、改ざん・偽造されたり、変造されたりすることが指摘されています。
秘密証書遺言については、遺言書の内容を秘密にしておける点と改ざん等を防ぎ、確実に保管をしてもらえるという点では強みがありますが、これも方式不備で遺言書自体が無効になってしまう恐れがあります。
安全かつ確実に、遺言書の内容を実現したいという場合、費用と手間はかかりますが、やはり公正証書遺言にしておくのが一番でしょう。
遺言を残したい人の想いを残された人に確実に届け、相続トラブルを未然に防ぐためには、遺言書が有効であることはもちろん、遺言書の内容や表現のしかたが非常に重要です。
遺言書を書いておきたいという方は、相続・遺言に強い専門家に是非ご相談ください。