任意後見制度の手続の流れ!費用はどのくらい必要かも解説
任意後見制度というのは、将来認知症や障害を持ってしまう場合に備えて、あらかじめ後見人になってもらいたい人と契約しておき、その契約後、本人が認知症等になってから、その人にやってもらいたいことを行ってもらう制度です。
そして、任意後見の契約は、公正証書によって締結しなければならず、契約の効力を発生させるのは家庭裁判所への申立てが必要になったりと、手続きが複雑になっています。
今回はその手続をするにあたっての流れと、かかる費用について解説いたします。
任意後見制度の手続の流れ
まず、任意後見制度を利用するためには、認知症や障害などにより判断能力が低下してしまう前に、任意後見人になってもらいたい人と契約を締結する必要があります。
また、その任意後見の契約は、公証人が作成する公正証書によって行う必要があります。
そして、任意後見契約の効力が生じるのは、家庭裁判所が任意後見人の仕事を監督する役割の任意後見監督人を選任したときです。
ちなみに、家庭裁判所が任意後見監督人を選任できるのは、任意後見契約が登記されている場合で、かつ本人の判断能力が低下しているときとされていますが、任意後見契約の登記については、自分で行わなくても、公証人が任意後見契約書の作成時にしてくれます。
これにより、契約書で指定された任意後見人は、任意後見監督人の下で特定の法律行為を、本人の代わりに行うことができるようになります。
①任意後見人を決める
判断能力に自信がなくなり将来に不安が生じたら、財産の管理や医療・介護・施設入所の契約などの法律行為を自分の代わりに行ってくれる「信頼できる人」を見つけます。
自身の任意後見人を決めるのは、よく相手を見極めて慎重に行う必要があります。
なお、どんなに信頼していても任意後見人になれない人がいますがそれは以下のとおりです。
- 未成年者
- 破産者
- 行方不明者
- 家庭裁判所により法定代理人を解任させられた者
- 本人に対して訴訟した者、その配偶者と直系血族
- その他任意後見人として適切ではない事由のある者
②どのようなサポートを受けるか
判断能力が低下したあとの生活をどうしたいか、そのためにどのようなサポートを受けたいのか、任意後見制度では、こうしたことを自身で考えて、自身が望むとおりに決めることができます。
任意後見の契約書にサポートを受ける内容をあらかじめ記入しておいて信頼する任意後見人に任せる準備をするのです。
③任意後見契約を締結
任意後見契約は、本人と任意後見人となる人の2人で行います。
任意後見契約とは本人が任意後見人に対して、財産の管理や医療・介護・施設入所の契約などの法律行為をしてもらうために必要な代理権を与えるために行う契約のことです。
また、任意後見契約は、本人の判断能力が低下した後に効力が発生し、本人の大切な財産管理等を行うものですから、不正等が行われないように、「公正証書」により作成しなければなりません。
ちなみに、公正証書とは公証人が作成した文書のことで、公証人というのは「ある事実関係」や「法律関係」を公に証明してくれる人のことを言います。
④判断能力が低下してきたら任意後見監督人選任を申立てる
任意後見契約の効力は、本人の判断能力が低下してきたタイミングで家庭裁判所へ任意後見監督人の選任の申立てを行い、任意後見監督人が選任されたときに生じます。
任意後見監督人は、任意後見人が不正等することのないように監督するために必ず選任しなければならないことになっています。
任意後見監督人の選任申立てができる人は次の人です。
- 任意後見受任者
- 本人
- 配偶者
- 4親等内の親族
⑤任意後見人の支援がはじまる
任意後見監督人が選任されて任意後見契約の効力が生じると、任意後見契約の内容に従い、本人の望む生活ができるように任意後見人のサポートがスタートします。
任意後見制度の契約・申立てに必要な費用
任意後見制度を利用するためには、任意後見契約を取り交わし、家庭裁判所へ申立てを行う必要があります。
契約を交わすとき、家庭裁判所への申立てを行うときには何が必要で、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。
任意後見契約書の作成
任意後見契約を交わすためには契約書を作成しなければなりません。
任意後見契約書は公正証書により作成します。
公正証書は、公証役場で公証人に作成してもらうのですが、その際に手数料が必要です。
また登記嘱託手数料や印紙代など公正証書作成のための諸々の費用がかかります。
- 公正証書作成手数料:11,000円(契約1つにつき)
- 登記嘱託手数料:1,400円
- 印紙代:2,600円
- 郵便切手代:600円程度
原本超過枚数加算、正本・謄本の作成費用などの費用がかかる場合もあります。
任意後見契約の契約書の作成には、トータルで約20,000円程度の費用が必要です。
任意後見契約書の作成を司法書士に依頼した場合
任意後見契約の契約書作成や手続きは複雑で、一旦作成してからミスが見つかっても変更ができないことも多いため、専門家である司法書士に依頼することもできます。
そして、依頼する場合は司法書士に対する費用が発生します。
費用は事務所などによって多少の違いはあるものの、約5万円~10万円程度が多いようです。
家庭裁判所への申立て(任意後見監督人の選任申立て)
任意後見契約が登記されている場合において、本人の判断能力が低下してきて不十分な状況になったときは、家庭裁判所へ申立てることで任意後見監督人を選任してもらい、任意後見契約の効力を発生させることができます。
任意後見監督人の選任により任意後見人が任意後見監督人の監督の下、契約で定められた特定の法律行為を本人に代わって行うことができます。
家庭裁判所への申立てについて、申立てができる人や申立先、申立てにかかる費用や一般的な必要書類は次のとおりです。
【申立人】
- 本人(任意後見契約の本人)
- 配偶者
- 四親等内の親族
- 任意後見受任者
【申立先】
- 本人の住所地を管轄する家庭裁判所
【申立ての必要な費用】
- 申立手数料:収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手:4,000円程度
- 登記手数料 収入印紙1,400円分
- 添付書類発行等の費用(診断書等):1万円~2万円程度
- 鑑定費用(必要な場合のみ):50,000円~100,000円程度
【申立てに必要な書類】
- 申立書
- 標準的な申立添付書類
・本人の戸籍謄本(全部事項証明書)
・任意後見契約公正証書の写し
・本人の成年後見等に関する登記事項証明書
・本人の診断書
・本人の財産に関する資料
・任意後見監督人の候補者がある場合にはその住民票又は戸籍附票
任意後見監督人選任申立てを司法書士に依頼した場合
任意後見監督人の選任申立て手続きは、提出しなければならない書類も多く、書類を集めたり作成するには専門的な知識も必要になるため、専門家である司法書士に依頼することもできます。
そして、依頼する場合は司法書士に対する費用が発生します。
費用は事務所などによって多少の違いはあるものの、約10万円~20万円程度が多いようです。
任意後見人等への報酬
任意後見制度を利用すれば、任意後見人が自身の代わりとなって様々なことをしてくれることになりますが、任意後見人の働きに対する報酬は、どのようになるのでしょうか。
報酬についても、任意後見の契約書で取り決めを行うことになります。
身内など近しい人を任意後見人とする場合には、報酬なしで引き受けてくれることもあるかもしれません。そのような場合には、契約書に無報酬と定めておくことも可能です。
一方で、司法書士などの専門家を任意後見人とする場合には、報酬が必要になることが一般的ですので、契約書に報酬額を明記しておくことになります。
なお、司法書士などの専門家に任意後見人を任せる場合の報酬額は依頼する専門家との間で自由に決めることができるため様々ですが、管理する財産の額に応じて以下のような金額設定となることが多いようです。
- 管理財産が1,000万円以下:月額20,000円程度
- 管理財産が1,000万円超5,000万円以下:月額30,000~40,000円程度
- 管理財産が5,000万円超:月額50,000~60,000円程度
任意後見監督人への報酬
任意後見人は家族などの身内に頼むことはできますが、任意後見監督人は家庭裁判所の判断によって選任され、司法書士などの専門家が選ばれることが一般的です。
そのため基本的には任意後見監督人の報酬が発生し、その具体的な報酬額は家庭裁判所によって決定されることになっています。
目安としては管理する財産の額に応じて以下のようになることが多いようです。
- 管理財産が5,000万円以下:月額5,000~20,000円程度
- 管理財産が5,000万円超:月額25,000~30,000円程度
まとめ
高齢化が進む現代において、認知症や障害などによって、財産の管理や医療・介護・施設入所の契約などを自分自身で行うのが難しいケースが増加しています。
自身の判断能力が低下した後も自分らしく思うような人生を過ごすために、任意後見制度は解決策のひとつとして注目されています。
一方で、任意後見制度を利用するには、法律上の複雑な契約書を作成したり、裁判所への申立てが必要になったりと、個人で行うには難しい面があることも事実です。
任意後見制度の利用は、本人が元気なうちでしかできません。
もし、制度を利用したいものの、手続が難しいとお悩みであれば、早めに司法書士等に相談されることをおすすめいたします。