成年後見制度で認知症対策! 法定後見・任意後見の効果や利用実態について
高齢者の割合が増え、今後認知症患者の割合も総数も増えていくとみられています。親族に認知症の方がいると悪徳商法に騙されるリスクが高まりますし、財産の管理も難しくなってしまいますので、その対策として成年後見制度の利用を検討してみてください。判断能力に問題がない今だからこそ取れる対策もあります。
認知症のこれからについて
認知症患者は全国に数百万人以上おり、2025年には700万人近く、2030年には750万人近くに到達する見込みです。
高齢者人口の20%ほどが認知症患者という計算で、すでに大きな社会問題になっているものがさらに深刻化していくと予想できます。
認知症に伴う問題としては、記憶力、理解力や判断能力の低下から預貯金の管理や解約ができなくなること、不動産の処分が難しくなること、相続手続や訴訟手続などが難しくなることなど、多く挙げられます。
家族などサポートができる方が身近にいればまだしも、そのような状況にない方も少なくありません。また、家族と同居をしていても本人に関する契約関係を自由に代行できるようにはなりません。そのため誤った判断により経済的な損失を被ることもありますし、本人が浪費をしてしまうことも起こり得ます。
成年後見制度による認知症対策の効果
成年後見制度を活用することで認知症対策を採ることも可能です。
まずはこれがどんな制度なのか、そしてどのような効果が得られるのかを押さえておきましょう。
法定後見と任意後見について
成年後見制度には法定後見と任意後見の2種類があります。
法定後見は本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所に後見人を選任してもらい、当該人物に法律的な支援をしてもらう制度です。
判断能力に応じて後見・保佐・補助の3つの制度が用意されており、それぞれに与えられる権限が異なります。
すでに認知症により判断能力が衰えている場合でも、法定後見なら事後的に対応することができます。
任意後見では本人が後見人と契約を交わし、生活のことや療養看護のこと、財産管理のことなど委任する事務をあらかじめ定めます。
そして認知症などによって判断能力が不十分になった後、その契約に基づいて、後見人が本人に代わって事務を行います。
代理で契約の締結や取消ができる
成年後見制度を利用すれば、認知症になった本人に代わって後見人が契約の締結や取消などをできるようになります。例えば次のような行為です。
- 入院契約の締結
- 医療費の支払い
- 介護サービスの申し込み
- 施設入所契約
- 介護費用の支払い
- 預貯金の管理
- 収入や支出の管理
- 遺産分割
- 不動産の処分 など
ただし制限はあります。まず、法定後見の「保佐」や「補助」の場合は自動的に代理権が付与されることはありません。そこで“本人が判断能力を欠いている”と評価されたときの成年後見人、または任意後見契約で代理権を与えられた任意代理人が、自らの判断で法律行為を代行できます。
なお、保佐人や補助人であっても特定の行為について別途申立をすれば限定的に代理権を持つことは可能です。
本人がした行為を取り消せる
成年後見制度の利用を始めておけば、それ以後、本人が不適切な法律行為をしてしまっても後見人等が取り消せます。よく考えず行動してしまって大きな不利益を被るおそれもあるところ、成年後見制度に基づく取消権を行使することでその行為についてなかったことにできるのです。
もちろん取消権の行使にも制限はあります。
本人が完全に判断能力を失っている場合の「後見」でも、日用品の購入などの日常生活に関する行為まで取り消すことはできません。
「保佐」や「補助」においては特定の行為について、“本人は保佐人または補助人の同意を得る必要がある”と定められています。借金や訴訟行為、相続の放棄、建物の新築・増改築など民法第13条第1項に列挙されている行為(またはその一部)を同意なく行ったときに限って取消が可能となります。
介護をしてもらう制度ではない
留意しておきたいのは、「成年後見制度は介護や身の回りのお世話を頼む制度ではない」という点です。
あくまで法律行為を後見人等に頼む制度であって、その方自身が直接介護をしてくれるわけではありません。
また、他にもできないことはいくつかあります。例えば株式投資や不動産投資などは、本人の財産を守る行為というより積極的に財産を増やすための活動です。
成年後見制度の趣旨には合わず、こうした資産運用をお願いするには家族信託などの仕組みを利用する必要があります。
一身専属行為に関しても同様で、本人でなければ意味がない行為は後見人等で代行できません。
遺言書の作成はその一例で、後見人等がすることは認められません。
成年後見制度の利用実態
厚生労働省が公表している資料によると、平成29年から令和4年にかけて、成年後見制度の利用者数は増加傾向にあるとわかっています。
「後見」「保佐」「補助」「任意後見」のいずれに関しても増加しており、今後も利用が進んでいくとみられます。
参照:成年後見制度の現状
その他、次のデータも示されています。
- 申立の動機
→ 「預貯金等の管理・解約」がもっとも多く、「身上保護」「介護保険契約」「不動産の処分」なども制度利用の動機として割合多い。 - 申立人と本人の関係
→ 「市区町村長」が申立人になることがもっとも多く、次いで「本人」「子ども」「兄弟姉妹」が申立人になる割合が大きい。 - 後見人等と本人の関係
- 親族以外が約80%で「司法書士」「弁護士」「社会福祉士」の順に多い。
- 親族が約20%で「子ども」「兄弟姉妹」「配偶者」の順に多い。
なお、法定後見と任意後見の割合は「99:1」と大半が法定後見(そのうち「後見」は特に多い)であることもわかっています。
しかしながら、法定後見を利用する時点では本人の判断能力が衰えています。
自分自身の将来について考えており、頼みたい行為・頼みたい財産があるのなら、任意後見の利用も検討すると良いでしょう。